「繊細な精神が音を立てずに摩耗しきってしまったため」

茨城県:陽子様
不登校の期間:弟が中学1年から卒業まで
不登校の理由:「静かなる崩壊」。いじめや目立ったトラブルがあったわけではなく、田舎特有の「全員が知り合い」という逃げ場のないコミュニティ、そして「男子はこうあるべき」という古い価値観の押し付けに、弟の繊細な精神が音を立てずに摩耗しきってしまったため。
「学校に行かない」という選択をした本人の影で、家庭という密室がどれほど濁り、澱んでいくか。
私は不登校児の姉という立場で、その一部始終を横で見続けてきました。
弟の部屋のドアが閉まったあの日から、我が家の時計は止まり、家の中には常に重苦しい湿り気が漂うようになりました。
行政の方々にまず知ってほしいのは、不登校支援における「家族全体の共倒れ」という盲点です。
弟が学校へ行かなくなった当初、母は狂ったように相談窓口を巡りました。
しかし、どこへ行っても言われるのは「まずはお母さんが笑顔で」「本人を待ちましょう」といった精神論ばかり。
当時、家庭は戦場でした。
母は世間体を気にして親戚に嘘をつき、父は無関心を装って仕事に逃げ、私は「迷惑をかけてはいけない」と自分の感情を殺して過剰に優等生を演じました。
不登校は、本人だけの問題ではありません。
一つの家庭の構造を根底から腐食させる劇薬なのです。
地方自治体の窓口に、私が姉として最も強くぶつけたい怒りは「診断名がつかない子への冷遇」です。
弟は発達障害の検査を受けましたが、数値は至って「普通」でした。
すると、行政の態度は一変します。
障害があれば「支援」の対象になりますが、ただ「学校の空気が合わない」「集団が苦痛」という理由だけでは、単なる「怠け」や「わがまま」として処理されてしまう。
この、白か黒かの二元論こそが、多くのグレーゾーンの子どもたちを社会の隙間に叩き落としている元凶ではないでしょうか。
具体的かつ切実な要望があります。
行政は「親を学校の身代わりにする」のをやめてください。
現在、不登校になると、学習の進捗管理も、メンタルケアも、将来の不安への対応も、すべてが保護者の肩にのしかかります。
本来、国が義務教育として提供すべきだった機能を、家庭という素人の集団に丸投げしている状態です。
家庭を「教育の場」に変えようとするのではなく、家庭を「休息の場」に戻すための支援が必要です。
例えば、家庭訪問に来るのは「学校復帰を促す教員」ではなく、ただ本人の好きなゲームや趣味の話を対等にしてくれる「利害関係のない第三者」であるべきです。
また、教育委員会の方々には、学校外での活動を「義務教育の成果」として認める勇気を持っていただきたい。
弟は5年間、一歩も学校へ行きませんでしたが、ネットを通じて独学でデザインのスキルを身につけ、今では海外のクライアントと仕事をしています。
しかし、中学時代の通知表はすべて「斜線」でした。
彼が家で積み上げた数千時間の努力は、日本の義務教育制度の中では「存在しなかったこと」にされているのです。
これほど残酷な否定があるでしょうか。
箱物としての学校を守ることではなく、個人の学びの軌跡を正当に評価するシステムへの転換を急いでください。
「民間フリースクールに行けばいい」という安易なアドバイスも、地方の現実を無視しています。
私の地域では、一番近いフリースクールまで車で1時間以上かかります。
交通費も月謝も、すべて家庭の持ち出しです。
行政が、公立学校に投じている一人当たりの教育予算を、こうした民間の学び場や家庭学習の経費として直接支給する「教育バウチャー」の導入を切に願います。
経済的な余裕がない家庭の不登校児は、ただ部屋で朽ちていくしかないのが今の日本の現状です。
最後に、世間の方々に伝えたいことがあります。
不登校の兄弟姉妹を持つ子どもたちもまた、深い孤独の中にいます。
「お兄ちゃんがああだから、あなたはしっかりしなさい」という呪いの言葉に、どれほど多くの子どもたちが押し潰されているか。
不登校は、家族の誰かが悪いわけでも、育て方の失敗でもありません。
単に、今の学校というシステムが、多様化しすぎた現代の子どもたちの受け皿として機能不全を起こしているだけなのです。
弟が大人になった今、私はようやくあの日々の呪縛から解き放たれつつあります。
しかし、今この瞬間も、茨城の、そして全国のどこかの家庭で、止まった時計の前で途方に暮れている家族がいます。
彼らを救うのは、「寄り添う」という耳触りの良い言葉ではなく、学校以外の選択肢を公的に、そして経済的に保障する「制度の改革」です。
どうか、これ以上、一つの家庭にすべてを背負わせないでください。
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